2010年03月29日

【再UP】寅の三題噺〜フィールドオブドリームス


先日、暇だったもので、
自分が昔書いたものを読み返しておりました。

いや〜やっぱオレ、おもろいわ!

自分大好きな寅はフツーに思えてしまうので困りものですが
とは言え、コレまだ使えるんじゃないの?と思えるようなものも…。


てな訳で、ちと昔のものを再放送ならぬ再UPしてみます。



かつて「寅の三題噺」と称しまして
読者の皆さまより“お題”を頂戴し、
それを必ず使用した小噺を創るという企画をやっておりました。

そのシリーズの中から

フィールドオブドリームス

というものをお送りします。




【2010プロ野球セ・リーグ開幕記念】

〜『寅の三題噺』第2回 
 お題 = 墾田永年私財法プロ野球開幕ガチャピン



いよいよ明日からプロ野球開幕という、春の日の夕暮れ。
阪神甲子園球場のグラウンド整備を請負う、
阪神園芸のベテラン職員が、
球場のホームベースのところから、
うかない表情でバックスクリーンを見上げている


「おぇ〜すゲンさん、
 明日から、またトンボ担いで頑張らなあかんな」

「…なんや、ナベかいな。どないしたんや」

「どないしたんは、こっちの台詞やでゲンさん。
 えらい元気ないがな」

「アホなこと言いなや…、やっぱ、そう見えるか?」

「そらそうや、
 いつもやったら『白木屋行こか〜』って、来る時間やがな」

「今、そんな気分やあらへん。
 開幕戦のグラウンド整備も、今年が最後かと思うと…


ゲンは今年で65歳。
定年後、嘱託として地面をならすトンボを握っていたが、
ついに明日の開幕戦を最後に、
トンボを置くことを決めたのだった。






「しかしゲンさんはスゴイわ。
 未だにトンボ1本で、最高のマウンド作るんやから〜」

甲子園駅前に何年か前に出来た居酒屋は、
オープン以来、男たちの溜まり場だ。
10年以上、ゲンと共に内野のコンディションを作ってきたナベが、
明日で去ってしまう同士の武勇伝を、
ロッカールームで無理矢理誘ったバイト生たちを相手に、
ジョッキ片手に語っている。

あの江夏がやな、
『ゲンさんの作ったマウンドでしか投げん』て言うてたんやぁ


「ナベ、もうええって。その話、今日だけで7回目や」

「いやいや、コイツら解ってないねん。
 このゲンさん先生の凄さをやなぁ〜」

「キミらも悪かったなぁ、金、ええさかいに、もう帰りや」

「おい、コラ、オマエら! 話まだ…」

同じ専門学校に通っていると言う、
同じような顔をしたアルバイト二人は、
安堵の表情を浮かべ、ゲンに会釈をして店の出口へと消えた。

「でもな、ナベよ。
 俺な、一人だけ、完璧にトンボ捌きで負けた奴がおんねん

「え!そんな奴おったんかいな?」

ゲンは、2杯目の生ビールを飲み干し、引き締まった顔で呟いた。

「…ガチャピンや」

日頃、冗談など言わない男の、突飛な発言に、
ナベは飲みかけた焼酎のお湯割を、ゲンの顔に吹き出した。

ガチャピンって、あの青虫みたいなヌイグルミかいな!

「オマエ、汚ったないな〜。びしょびしょやないか」

「だって、ゲンさん、おかしな事言うから」

「ホンマや。あの青虫、
 トンボ1本で、真綿みたいな…でも芯は固いマウンド作りよった」

「しかし、なんでガチャピンがマウンド作ったんや」

ホンマは始球式で来よったんや
 でも俺の顔見るなり、トンボ貸せ言うてな…」

「ほんで、どないしたんや」

「自分が放るマウンド整備しよった。
 木のトンボが生き物みたいに地面に喰いつきよる

「へぇ〜、唯一ゲンさんが負けた相手が、ガチャピンとはなぁ〜」

3杯目の生ビールの泡をすすった後、
ゲンは表情を更に強張らせ、切り出した。

「今から言う話、誰にも言うなよ」

「お、おう。大丈夫や」

実はな、俺、ガチャピンに付きまとわれてんねん

「え?」

アンタのトンボ捌きが必要や、言うて、ウチに電話かけてきよる」

「なんで、また?」

「何やら、東京の河田町いうところに、財宝が眠ってるらしいねん

「なんやて! 財宝?」

「オマエ、声がデカい! 
 それも骨董品らしくてやな、大掛かりな工事がでけんと

「パワーショベルとかで行ったら、壊してしまうんやな」

「そうや。だからトンボみたいな細かい力加減が必要らしいんや

「それで、ゲンさんに白羽の矢が立ったと」

ようやく信用し始めたナベを相手にゲンは、
その「工事」のために、
ガチャピンがフジテレビをお台場へ移転させたこと、
そして全国をロケで回りながら、人材を探していたこと、

さらにゲンと出会ってからは、
番組を終了させ、
ゲンへの「ストーキング」を強化したことを話した。

「ええ話やないか、財宝見つけたら、左うちわやで、毎日」

「いや、俺はもう、
 これから家で毎日ビール飲みながら、孫とナイター見るんや

「テレビ局移転させてまで掘りたい財宝や。絶対スゴイもんやって!」

「だから声がデカい! 俺はその気ないねん。それに怪しいがな」

「俺やったら、迷わず行くで」

こないだ正月の一日から電話かけてきよった。今から迎えに行くって」

「で、ゲンさんどないしたんや?」

「もちろん、ハッキリ断ったよ…
来んでええ、年始に、財宝なんて…』言うて」

「ん? 何て?」

「『こんで(ん)ええ、ねんし、ざいほう』なんて…て」

「…そうか」

翌日、ゲンが最後のマウンド整備に取り掛かった頃、
甲子園から遠く離れた神宮球場の開幕戦で
またも始球式のマウンドに向かうガチャピンの姿があった
posted by 天八亭寅次郎 at 00:56| 大阪 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 寅の小噺 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/144950417
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。